環境・エネルギー問題についてビル・ゲイツの脳内を妄想する

ビル・ゲイツがいよいよ環境課題の解決に向けて具体的に動き始めた。

Breakthrough Energyという新たなプログラムで、研究開発支援や企業・研究機関への投資、啓もう活動を通じて温室効果ガスのネットゼロ排出を目指すという。

 Melinda & Gates Foundationでもポリオ撲滅に精力的に取り組んできた彼だが(先日の離婚の件はショックだったがそれはさておき)、まだまだ更に活動の幅を広げるようである。いくつになっても走り続けるこのパワーには本当に畏れ入る。

 

このBreakthrough Energyが特にフォーカスする4分野というのが非常に興味深い:

・Direct air capture (大気中のCO2の直接回収)

・Green hydrogen (再生エネルギーで水を水素と酸素に電気分解することにより製造する水素)

・Long-duration energy storage (長期エネルギー貯蔵)

・Sustainable aviation fuel (持続可能な航空燃料)

 

こう並べられてみると何となく納得させられてしまうのだが、何をすべきかを考え抜き、活動の対象をこれらの特に効果が見込めそうな4スコープに既に絞り込んでいるところがビル・ゲイツの頭の良さだと思う。

 

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勝手ながら、ビルの頭の中を妄想しながら追いかけてみる。

 

まず、解きたい課題を明確にすることだ。

 

このイニシアチブで目指すゴールは上記サイト内に明記されている:

We are helping the world get to net-zero emissions while making sure everyone, everywhere has access to the affordable, reliable energy they need to thrive.

何気ない一文だが、これが非常に重要。

 

まず、現状とあるべき姿のギャップが明確。サイトの太字箇所をつまみ食いしただけでも以下のゴールが読んで取れる。

"世界の温室効果ガスの年間排出量を2050年までに現状の510億トンから(ネット)ゼロとする"

所謂「SMARTゴール」のお手本のような目標だ。(Actionableかはこれだけではわからないが・・・ビルの中ではそこも検証済みなのだろう)

 

また達成に向けた条件設定も明確に織り込まれている。

まずnet-zero emissionsとあるが、要は±ゼロになれば良いわけで、排出は続けるがその分回収するという手段も取り得ることがここで明記されている。

そして後半にあるwhile making sure everyone, everywhere has access to the affordable, reliable energy they need to thrive、あくまでも現在の暮らしを経済面・安定面において脅かすような手段は選ばないということが明言されている。

このことによって、例えば「もういっそひと昔前の暮らしに戻せば良いじゃん!」とか「電気代釣りあげて使えなくすれば良いじゃん!」みたいな議論に流れることを阻止しているのである。

 

さて、では上記を達成するためにどうすべきか、が課題となるわけだが、次に、その要素分解をしていく必要がある。

そもそも人間が生活の中で燃料を燃やしCO2を大量排出するのは電気や輸送、工業、農業用のエネルギーを得るためである。(呼吸を制限するのは現実的ではないので)

とすると、エネルギーの利用に至る過程に分けるといくつか打ち手が考えられる。

 

  ・A) エネルギーを作る

   -a) CO2を排出しない方法で作る

   -b) CO2を排出する方法で作る

     - i) CO2の排出を減らす

     - ii) 排出したCO2を回収する

  ・B) エネルギーを貯める

  ・C) エネルギーを使う

 

ここまで分解すると、あれやこれやとアイデアが出てくるが、全部をいっぺんにやろうとするのは効率が悪い。そこで、実現可能性と実現した場合の効果を掛け合わせて最も優先して取り組むべきものにフォーカスを絞る必要がある。

ここで冒頭のBreakthrough Energyのスコープに戻ってみよう。

・Direct air captureはiiの話、

・Green hydrogenはaの話、

・Long-duration energy storageはBの話、

・Sustainable aviation fuelはiの話(の中でも特に航空輸送にフォーカスしている。自動車等と異なりGreen hydrogenが適用できないため切り出しているのかも)、

と言えるのではないだろうか。

 

なお、A(とその分解要素)~Cまで多様な打ち手が考えられる中で、Breakthrough Energyが上記4要素に着目点を絞り込んだ具体的なロジックまではわからない。恐らくそれぞれの要素につき、実現可能性×効果をかなり真剣に検討した上で絞り込んだのではないかと思っている。

 

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長くなったが、世界の頭脳ビル・ゲイツが本気で支援すると決めたこの4分野で今後、どのような技術革新が進み、環境課題を人智によって解決していくのか、甚だ楽しみである。

 

余談)少し前の作品だが、"Inside Bill's Brain"というBill Gatesを追いかけたNetflixのドキュメンタリーシリーズが非常に面白いのでお勧め。なお「(これまでの人生で)やっておけば良かったことは?」と問われてしばしの沈黙の後、「メリンダとの時間を作ること」という趣旨の回答をするシーンがあり、今となっては何とも胸が痛む。